なぜ今作のテーマは「鍵開け」なのですか?
元来、ハッキングと鍵開けは非常に密接な関係にありました。当時はコンピュータを使用できるユーザーは限られており、コンピュータに興味があるハッカーの卵たちは夜間にコンピュータルームに忍び込んでハッキングの技術を習得していました。その際に、鍵開けの技術が必要とされました。また、鍵開けは、錠前の設計の弱点を突くという点で非常にハッキングに近い思想にあります。
そういった経緯があり、海外のハッカーコンテストやハッカー会議において、鍵開けはひとつのジャンルとして確立しています。また、老若男女に鍵開けの技術を広く知ってもらうために、錠前業界の人たちがボランティアで手ほどきをすることも少なくなりません。
一方、日本の錠前業界は対称的です。基本的に解錠技術を公開しません。これにはいくつか理由が考えられます。1つ目は、長い年月をかけ、高い講習料で得た知識を公開してしまうことに抵抗があることです。2つ目は、情報を公開してしまうことで仕事が減ってしまうのではないかという心配があることです。3つ目は、情報の公開に対して業界や同業者からの圧力があることです。こういった理由のため、情報交換はギブアンドテイクが基本であり、仲間の間だけで情報を共有するか、数十万円の講習料で教えるといった状況です。
それに加えて、ピッキング防止法の施行により、理由なく解錠工具を所有したり、携帯したりすることは違法となってしまいました。この法律は、純粋に錠前に対して興味を持っていた人たちから楽しみを奪ってしまいました。
このままでは、日本の錠前業界が世界から大きく後れをとってしまう恐れがあります。これを解決するには、多くの若者が、錠前に興味を持つ環境が必要だと考えています。本書はその手助けのひとつとなれば本望です。そして、日本のハッカーコンテストでもひとつのジャンルとして鍵開けが採用されることを望んでいます。
内容を簡単に教えてください。
本書は以下の内容で構成されています。
・鍵の基礎知識
鍵の進化における歴史なども含め、鍵の構造について、単純な一本の閂から複雑なディンプル錠まで総合的に解説。
・鍵の施錠の仕組み
各種の鍵に対する施錠の仕組み、構造、強度などを解説。
・鍵の解錠の仕組み
各種の鍵に対する解錠原理、解錠工程を解説。
詳細は目次ページやWeb立ち読みページを参照してください。
表紙のタイトルカラーが前作は緑色、今作は朱色です。何か理由はありますか?
自分にとって、赤色は最初の著書『ハッカーの教科書』のカバーを連想させます。
これまで十数冊の本を執筆し、ある程度慣れてきたところでした。
しかし、本書の執筆では、初心に返り、錠前への思いをぶつけました。
原点回帰ということで、カバーデザインでは初代『ハッカーの教科書』と似た色を採用してもらいました。
過去作と比べて値上げされたのはなぜですか。
過去の『ハッカーの学校』シリーズと比較すると、次のようになります。
タイトル | ページ数 | 文字数 | 画像の数 | 値段(税別) |
『ハッカーの学校』 | 440 | 約35万 | 約230 | 3,500円 |
『ハッカーの学校 個人情報調査の教科書』 | 460 | 約39万 | 約300 | 3,500円 |
『ハッカーの学校 鍵開けの教科書』 | 590 | 約43万 | 約1450 | 4,300円 |
ページ数が増えたことにより、仕方なく値上げすることになりました。
『個人情報調査の教科書』のページ単価が約7.6円(=3500/460)、『鍵開けの教科書』のページ単価は約7.3円(=4300/590)になります。つまり、『鍵開けの教科書』は値段が高いですが、ページ単価は低くなっており、お得になっています。さらに、『鍵開けの教科書』ではフォントの大きさをぎりぎりまで下げたり、ページに無駄がないように図を配置したりしています。そのため、過去作と比べて、1ページ当たりの情報量が凝縮しているはずです。
1冊4,300円というのは、高い本の部類に入ると思います。まずは書店で立ち読みして、内容を確認してみてください。
『鍵開けの教科書』の続編はありますか?
本書で解説している内容は基本中の基本です。錠前の世界は奥が深く、まだ多くの学ぶべきことがあります。 実のところ、本書は削りに削ってこの内容になっています。 本書の売れ行きがよければ、将来的に『鍵開けの教科書』の第2弾が誕生するかもしれません(個人的には今すぐにでも書きたいが、出版社としては売れないと本にできない)。